この記事では、法律事務所で新人事務員を採用する際、試用期間にするべきゴールの設定方法や手順、注意点についてご紹介しています。
きっちり教えてもらえるわけじゃないのでいつも不安です。
何をどう頑張ればいいのかも曖昧ですし。
このように感じている新人事務員は少なくありません。
というのも、多くの中小企業がそうであるように、小規模の法律事務所において、新人事務員の教育制度や研修制度が充実しているような事務所はほとんどありません。
何しろ、どこも人手が足りないギリギリのところで新しく人を採用しているのです。
抱える仕事で精一杯で、弁護士も先輩事務員も教育どころではありません。
必要だとわかっていても、なかなか新人の教育まで手が回らないのが実情でしょう。
そんな中、試用期間中に新人事務員の適性を判断するのは難しく、何となく本採用し、何となく不採用にしている事務所も多くあります。
その結果、何となく本採用した事務員がすぐに辞める事態も多発しています。
そこで今回は、法律事務所で新人事務員の試用期間に設定すべきゴールについてご紹介します。
試用期間は何のためにあるのか
試用期間?事務員に適性があるか見定めるためでしょ?
試用期間が何のためにあるのか聞かれたら、そう答える人は多いでしょう。
しかし、実際のところ、本当に適性を見定められているでしょうか?
いえ、正確に言うと、適性を見定める準備ができているでしょうか?
大半の事務所では、ただ何となくその時振りやすい仕事を新人事務員に振り、ルーティーンとなる仕事をさせ、大体の「感じ」や「雰囲気」で、適性の有無を判断しているのが実情ではないでしょうか。
もっと消去法的に、大きな問題がなければヨシとしている事務所すらあるかもしれませんね。
それで果たして適性はわかるものなのか、非常に疑問です。
弁護士の「人を見る目」はアテになる?
俺は人を見る目があるから大丈夫!
そんな風に言う弁護士もいます。
しかし、私の過去の経験上、弁護士が面接時にそう豪語して採用した事務員が数ヶ月で辞めてしまったり、いつまでも仕事が覚えられないということもありました。
もちろん、言葉では言い表せない相性やフィーリングを全否定するものではありません。
しかし、そういった弁護士の「勘」だけに頼るのでは限界があるのも事実です。
新人事務員の気持ち
試用期間中の新人事務員ほど、不安定な立場はありません。
正式に採用されるかどうかで、今後の自分の生活や人生がかかっているのです。
そんな新人事務員にとって、何となく「感じ」や「雰囲気」だけで評価されるというのは、やりにくいことこの上ありません。
何をどう頑張ればいいのかわからない
ただでさえ慣れない初めての職場で緊張しているのです。
それなのに、ろくに研修も無いのに、自分の一挙手一投足がどう転ぶかわからないなんて、怖すぎると思いませんか?
例えば、テキパキした方がいいと思ってした行動が、慎重さがないと評価される可能性もあります。
明るく振る舞った方がいいと思っていたら、真剣さが足りないと思われる可能性もあるのです。
何となく「感じ」や「雰囲気」だけで判断されるというのは、地図も無く地雷の埋まった草原に放り出されるのと変わりません。
そして、よくわからないあやふやな基準で、採用されないこともあるのです。
それですんなりと納得できるわけが無いですよね。
事務局が積極的に関わるべき
当然ながら、事務局は新人事務員と一番近くで働くことになります。
となれば、今後の人間関係のためにも、新人事務員の適性や人柄は非常に気になるところです。
採否の最終的判断を弁護士がすることは当たり前です。
しかし、それが弁護士の完全な勘頼りとなると、事務局としては不安しかありません。
私の経験の中でも、弁護士の前では非常に上手く立ち回りながら、事務局内ではサボってばかりという例もありますからね。
新人事務員の適性や人柄を試用期間中に見定めることは、それ以後の事務局内の人間関係に直結することと言っても過言ではありません。
よって、新人事務員の採用の可否に、事務局は積極的に関わっていくべきなのです。
弁護士にしてみても、事務局がゴタゴタしているよりも円滑な人間関係を築けている方が仕事がしやすいのは間違いありません。
具体的には、新人事務員の試用期間について、弁護士へ次のような提案をしていきましょう。
試用期間の「ゴール」を決める
試用期間にはゴール、つまり明確な評価基準を決めておくように提案し、事務所全体の共通認識事項にしましょう。
これは採用する法律事務所側にも、採用される新人事務員側にとってもメリットのあることです。
法律事務所にとっては、弁護士の「勘」だけに頼らず、客観的に仕事の出来不出来の適性や取り組み方を見る指針になります。
新人事務員にとっても、何をどう頑張ればいいのかはっきりするのでやりやすいですよね。
また、もし本採用にならなかった場合には、ゴールを達成できなかったという事実は自分に足りない部分があるということなので、納得できるでしょう。
ゴールは具体的かつ客観的に
ゴールは評価基準ですから、具体的かつ客観的なものである必要があります。
具体的なゴールは事務所によって違うでしょう。
その法律事務所で取り扱う事件の種類や、事務員が行う仕事のレベルで決めることになります。
ここで重要なのは「何となく」や「雰囲気」の要素は極力無くすことです。
具体的であり、かつ、客観的に判断できるものでなくてはいけません。
例えば、あなたの事務所が消費者金融への過払金請求事件が多い事務所であれば、次のようなある程度決まった流れがあるはずです。
- 消費者金融への受任通知・取引履歴の請求
- 利息引き直し計算
- 消費者金融への過払金の返還請求
- 担当者との交渉
- 和解が成立した場合の合意書案の起案
- 訴訟に移行するなら訴状の起案
そういった流れの中で、試用期間中にできるようになるべきことのチェックリストを作り、そのチェックが埋まることをゴールとするのです。
じゃあ、アレとコレとソレと…
まだまだあるぞ!
こんな風に弁護士が言い出したら、必ずストップをかけてください。
あまりに高すぎるゴールの設定はおすすめしません。
なぜなら、試用期間はせいぜい3ヶ月程度の事務所が多いはずで、まったくの未経験者が3ヶ月でできることは限られているからです。
試用期間での完成形を目指すわけではありません。
あくまで今後事務所で勤務を続けるなら、試用期間中には最低限ここまではできて欲しいというゴールにするべきでしょう。
ゴールまでのサポートはきちんとする
ゴールを明確にしたからと言って、放ったらかしではいけません。
手が足りない法律事務所では、手取り足取り新人教育をするのが難しいことはわかります。
ですが、せめてゴールに関わる業務だけは、事務所全体できちんと指導しましょう。
そうでなければ、新人事務員の適性の有無なんて判断のしようがありません。
教えられなくても、自力でゴールを達成できる人材が欲しい!
たまにこういうことを言う弁護士もいますが、そこまで優秀な人材は他からも引く手数多のはずです。
そういう意味では、事務所は選ぶ側ではなく選ばれる側になりますので、相当待遇を良くしなければそんな人材は来てくれないでしょう。
新人事務員の側にも、もちろん受け身で待っているのではなく、自ら教えを請う姿勢は必要です。
しかし、いずれにしても事務所側のサポートは必須なのです。
ゴールは新人事務員に明確に告知する
試用期間のゴールは新人事務員に明確に告知しなければいけません。
判断基準を教えたら、そこだけうまくやるだけじゃない?
そう思われるかもしれませんが、それでいいのです。
たとえ限られた業務であっても、その出来不出来というものは「勘」や「感じ」「雰囲気」だけに頼るよりも、よほどアテになります。
また、判断基準をブラックボックスにすると、新人事務員は何をどう頑張ればいいのかわかりません。
そうなると、将来性を含めた適性の判断は難しくなります。
つまり、ゴールを明確にしておけば、ゴールが達成できれば適正ありと判断できるのはもちろん、達成できなくてもゴールに向けてどう行動したのかは見ることができるわけです。
そして、その取り組み方にも人格が出ます。
例えば、終始受け身姿勢だったのか、それとも、より効率的な方法を自分なりに考えいたのか等、判断材料を得ることができるのもメリットです。
まとめ
法律事務所で新人事務員の試用期間に設定すべきゴールのポイントは次の通りです。
せっかく手間と時間と費用をかけて新人事務員を選んだのですから、選んだ側の責任として、適性の有無はきちんと判断するべきです。
私の経験上、特に小規模の法律事務所では試用期間をうまく活用しきれていません。
この機会に一度しっかりと取り組んでみてはいかがでしょうか。
そうすることで、より欲しい人材を採用できたり、反対に、無駄な採用による二度手間を防ぐことにもなります。
一度しっかり制度化してしまえば、今後の採用の際にも使えますし、決して無駄にはなりません。
また、特に新人の頃は、不安は取り除いてあげればあげるだけ、早く成長してくれることが多いです。
今回ご紹介した試用期間でのゴールやそのサポートも、新人事務員の不安を取り除く1例です。
他にも、例えば、最近の若い事務員の多くが苦手と感じているのが電話対応です。
もし、あなた自身やあなたの周囲に電話対応を苦手としている人がいるなら、こちらの記事を参考にして、不安を少しでも軽くしてあげてください。
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法律事務所で日々頑張っているあなたの参考になれば幸いです。
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